竹橋の近代美術館で「藤田嗣治展」がかかっていたので
見に行った。私は不勉強で、フジタについてオカッパ頭のパリに同化した画家。「軟派」。そのようなイメージしかなかったのであまり期待はしていなかった。しかし結論から言うと、衝撃といえるような感銘を受けてしまった。いまもその余韻というか、自分の認識にひとつの足がかりのような引っ掛かりができつつあるのをしみじみ感じている。それは、１枚の絵による衝撃である。「アッツ島玉砕」。私は多少戦史に詳しいので、この島の意味を知っている。太平洋戦争中にもっとも早く守備隊が全滅した、アリューシャン列島の島。「刃も凍る北海」にある。フジタは大戦直前に帰朝し、軍部の要請でいわゆる「戦争画」を描いた。この絵は、本人も認めるその代表作である。
画面いっぱいを、敵も味方も分からないぐらいの死屍累々。壮絶な生と死の世界。こんな絵があったのか！とハンマーで頭を殴られる思いがした。とにかく一度ご覧になると良い。
この絵は、おそらく戦後全く評価を受けていない。それどころかほとんど抹殺され、だれもこの絵について語ろうとしなかったであろう。
実際フジタは、戦争協力者として、終戦後断罪され、日本を去らざるを得なかった。再びフランスに戻り、帰化して一生を終わる。
人々がなぜこの絵をしっかりと見て、評価しなかったのか？この絵が表現してしまっているものは、当時の軍部に加担する、とか皇国史観に殉ずるとか、そのような小さなテーマではない。地獄と天国の表裏一体性、人間の業やさびしさ、実はこれこそが、まさに洋画の世界なのではないだろうか？
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